2011.12.04

[書評]アフリカ大陸一周ツアー

数々の旅行記が出版される中、アフリカを巡るものはなかなかないのではないだろうか?それもエジプトやケニアなど観光で有名な国だけでなく、治安が悪い国まで含めて26ヶ国を巡る壮大な旅だ。

この本はタイトルどおり旅行記として描かれる部分がメインとなるが、アフリカに住んでいる人の生の意見、特に私たちがマスコミから伺い知ることができない喜び/悩みがはっきりと書かれていることが特徴的である。その意味で単なる旅行記を超え、アフリカ世界を知るための入門書としてもぴったりな本である。

まずは旅の特徴から書いてみよう。このアフリカ旅行はなんとパック旅行である。それも全部陸路、バスツアーであることにビックリする。

アフリカ大陸を沿岸国を走り抜けるバスはアフリカの悪路や気候に考慮して特別な改造をしている。同じバスで26ヶ国、走行距離はなんと4万キロメートルに上る。それを10ヶ月かけて旅を行う。

宿泊は基本的にキャンプ、食事は当番製である。そのために参加者のチームワークが要求される風変わりな旅であるが、逆に参加者のアフリカに対する見方や情報も生々しく著者に入っていく。

そもそも参加者の多くは欧米人でアフリカの見方が日本人とは根本的に違うため、この本を通すことで読者はきっとアフリカに対する見方が大きく変わるはずだ。というのは欧米の主要国はアフリカの旧宗主国であり今も昔もアフリカと大きな結びつきがある。アフリカは昔は植民地政策、現在は貿易拠点として、あるいは援助拠点としての重要な関わりがある。日本と欧米のメディアの間でアフリカの情報量が圧倒的に異なるのもそのようなバックグラウンドのせいだろう。事実BBCのニュースを見ると、結構な量のアフリカ情報が日々流れている。

私たち日本人はアフリカと言うと、観光、鉱業国、あるいは援助対象国、政治不安というイメージが強いだろう。事実それは当っているのであるのだが、その背景を知ることはほとんどない。旧ザイールやジンバブエはアフリカの中でも非常に裕福な国であったはずなのに、今は見る影もない。特に旧ザイールは旅行をするだけでも危険な国であるのに、植民地時代にはヨーロッパ人による高級リゾート地だったとは思う人はいないだろう。なぜそのような状態になったかは本に答えが書いてあるので是非読んで欲しい。

またアフリカの現地で援助活動をする人と交流する姿を通して、日本の援助の仕方は本当にこれでよいのか?と考えることになるだろう。

本を通してシリアスに考えさせられる部分も数々ある。とはいってもこの本はやはり旅行記なのである。参加者同士での会話、そして現地での観光、特に現時人との交流を通してアフリカでの躍動的な日々を新鮮に、時には迷いながら書かれているのは、読んでいる方はまるで自分が旅をしているようにワクワクする。トラブルでさえも後から振り返ると楽しい思い出となるのだ、ということをまさに具体化している旅なのだ。

ちなみにアフリカの東海岸は治安が悪く、悪路が多いため西海岸のみのバスツアーの方が人気が高いとのことである。私の夢は世界の国を全て回ることだが、この本を読んでみてから東海岸を巡るのはちょっと厳しいかな?と思った。

ツアー料金のみで68万円、時間は1年弱かかる。しかしお金と時間では得られない体験ができるはずだ。治安と衛生状態がもう少し良くなったらいつかは実際に行ってみたいと思った。でもその前に英語を勉強しないと。

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2011.05.08

[書評]余剰次元と逆二乗則の破れ

ブルーバックスシリーズは高校程度の前提知識で最先端の科学を理解できる良書が多い。この本は万有引力の挙動を精密に測定することで、4次元を超える空間の有無を確認しようという、とてもユニークな最先端研究の話だ。

まずは万有引力について説明しよう。万有引力はニュートンが法則化し、これによって惑星の運動を説明することが可能となった。

万有引力の大きさは互いの距離の2乗に反比例する。(*この本では逆二乗則と呼んでいる。)万有引力の大きさは非常に小さく、奇才キャベンディッシュによって初めて測定された。万有引力の法則を式で書くと、F=GMm/r2である。ここでGは万有引力定数、M,mは互いの質量、rは距離を示す。

ところで、万有引力の大きさはなぜ互いの距離の2乗に反比例するのだろう?万有引力は「グラビトン」(あるいは重力子)と呼ばれる粒子をお互いに送受信することによって伝わると考えられている。残念ながらグラビトンはまだは発見されていない粒子で、これを発見した人は間違いなくノーベル賞が受賞できると言われている。ところで、球の表面積は4πr2であるから、ある点から送出されるグラビトンは、そこからrだけ離れた点においては1/r2に比例した数を受け取ることができると考えられる。これより万有引力の逆2乗則が説明できる。

話は変わって、超ひも理論と呼ばれる研究がある。超ひも理論とは世の中の力を統一的に説明するための研究だ。この理論では私が住んでいる空間の次元は何と4次元(3次元+時間)を超えるらしい。超ひも理論と同様に4次元を超える空間を予想しているADDモデルでは、4次元を超える部分は1mmオーダーの大きさで存在すると予測している。

4次元を超える空間の存在を確認するにはどうすればよいのだろうか?先ほど万有引力は3次元空間+時間であれば、逆2乗則に従うと述べた。よってADDモデルが正しければ1mmオーダーで万有引力を精密に測定し、逆2乗則に従わないことを測定できれば、この世に4次元を超える空間があることを確認できるはずである。

さて、本書は万有引力を微細な距離間で測定することで、4次元を超える空間の存在を確認する研究プロジェクトの詳細について語られている。万有引力は非常に小さい力のため、測定を行うには様々な工夫が必要だ。6章では実験を行うためのユニークな工夫、そして苦労話が「楽しく」書かれていて、読んでいる方もわくわくするはずだ。

しかし、本書の特徴は、やはり1~5章における量子力学の「わかりやすい」説明にあるだろう。本書のハイライトは力がどうして伝わるかが直感的に理解できる4章「力の法則の一般形」だ。量子力学の説明がほとんどないままで、ミクロな世界における力の伝わり方を説明している書籍はなかなかお目にかかれない。量子力学の興味がある人、既に大学で物理を習った人も4章は必見である。

タイトルを一見しただけでは何の本だかわからないことが個人的には非常に残念だが、量子力学における力の伝わり方が理解できる良書である。著者による研究愛が強く伝わってきて、読んでいて楽しくなる。量子力学に興味がある方、特にミクロな空間で力を伝える仮想粒子を勉強している人には是非読んで欲しい。

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2010.11.22

[書評]Matilda ~英文小説を始めて初めてトライする人への一冊~

技術英文は業務で接する機会が多いので、読み事はそれほど苦にならない。でも英文小説を読むのは結構苦手だ。英文構造が比較的平易な技術英文と違って、感情に関わる表現、ニュアンスなどが小説にはふんだんに含まれているからだ。

とは言っても、英文コミュニケーションをスキルアップするには日常的に使われる英文を大量に読んで、慣れることが避けて通れない。今回お勧めする「Matilda」は、英文小説を読んでみたい、でもなかなか読むのは大変で。。。と感じている人にお勧めの本だ。

この本のウリはストーリー展開の素晴らしさにつきる。英文小説と聞くと、読むだけでも結構辛く感じるかもしれないが、この本は読めば読むほど次のストーリー展開が気になるほど、話の運びがうまい。通勤途中で少しずつ読んでいって、途中で投げ飛ばす気分にならずに最後まで読みきることができた。それもそのはず、著者のROALD DAHLは映画化された「チャーリーとチョコレート工場」の著者でもある。Amazonの書評で高評価なのも納得だ。

概要はこんな感じだ。主人公のMatildaは天才少女。だけども両親はその才能を認めてない。両親は中古車ディーラーだが、買ってきた中古車にある細工をすることによって、本来の性能よりも良い車として売るダメディーラーだ。前半はMatildaが奇想天外ないたずらをすることによって、父親を懲らしめる話。後半はMatildaが小学校の教室で繰り広げられる話。Matildaが通う小学校の校長は恐怖政治を行っている。問題を解けない学生には恐怖のペナルティが待っている。ところが、Matildaの担当の先生と校長が意外な関係がわかり、Matildaはそれを解決すべく素晴らしい作戦を実行する。最後の最後にストーリーが急展開し、ハッピーエンドで終わる。

「Matilda」はティーン用の小説なので、英文構造が比較的わかりやすい。もちろん英単語もわかりやすいものばかり。一部感情表現など、入試英語、ビジネス英語では接しない英単語もそこそこ出現するけども、それは読み飛ばしても英文の内容にはそれほど影響しない。TOEICの点数が500オーバーなら完読できると思う。

ボリュームは230ページとかなりの量だが、1章あたりのページが約10ページでストーリーは章毎でまとまっているので、1日1章などペースを決めれば読破できると思う。私のように気が向いたときに少しずつ読む、というのも一つの手だ。

また、どうしてもストーリー展開がわからない、という人は邦訳も出ているので、それを読むのも一考だろう。

今度は「チャーリーとチョコレート工場」を読む予定だ。円高なので洋書を買うのは今がお勧めだ。

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2010.11.16

[書評]西洋音楽史I―バロック以前の音楽

クラシック音楽で人気がある作曲家と言えば、バッハ、モーツァルト、ショパン、ドビュッシーなどを思い浮かべる人が多いだろう。これらの作曲家を歴史的に分類すると、バロック、古典派、ロマン派、印象派に相当する。クラシック音楽として普段聴いたり演奏されている曲の多くはこのジャンルに相当する。また、ある程度クラシック音楽を知っている人は現代音楽についても知識があるかもしれない。現代音楽をざっくり知りたい方は是非私が解説している現代音楽入門ページを読んで頂きたい。

ところで、かなりのクラシック音楽通でもバロック以前すなわち中世・ルネサンスの西洋音楽について詳しく知っている人は稀ではないのだろうか?中世の西洋音楽は知名度が低いため、多くの人によって誤解されている音楽である。例えばバロック以前の音楽は完成度が低いと言うイメージがあるようだ。実は私もそう思っていた。しかし本書で紹介されている代表的な中世音楽を聴くと、そのような先入観は完全に間違っていることに気がつくはずだ。


さて、本の紹介に移ろう。本書は一見するとよくある新書サイズの音楽解説書だが、とてもユニークな試みを行っている。この本はCDが付いてないにも関わらず、本で取り上げられている代表的な曲を聴くことができる。実は本にはパスワードとURLが書いてあって、読者はブラウザ上で音楽を再生可能な仕掛けになっている。使用している音源がNAXOSレーベルであることも興味深い。

NAXOSは古今東西のあらゆる西洋音楽を録音している意欲的なレーベルである。廉価な価格でCDをリリースしたり、PCでストリーム配信を積極的に行っていることでも知られている。更にはポピュラーではないが、音楽的に重要な音楽を数多く録音しているため、コアなクラシックファンには大変人気がある。今回本書で紹介している曲は実際Amazon等で収録CDを購入することができる。

中世・ルネサンス音楽の入門書である本書の特徴は、中世音楽が音楽的に発展する流れを歴史的背景を踏まえてわかりやすく解説しているところだろう。図表も豊富、新書サイズなのでさくさく読める。ただ、個々の作曲家に割いているページ数は1~2P程度であり特定の作曲家を深く知りたい人にはちょっぴり物足りないだろう。。もし本書を読んで特定の作曲家に興味を持った場合、その作曲家のCDを実際に買ってみたり、あるいはもう少し本格的な解説書:例えば皆川 達夫著「中世・ルネサンスの音楽 (講談社学術文庫)」を読んでみることをお勧めする。

せっかくなので本書で書かれている中世・ルネサンス音楽について超特急で解説をしておこう。バロック以前の西洋音楽はキリスト教と密接な関係があった。例えば有名なグレゴリオ聖歌はその名のとおり教会で式典時に歌われるものである。

グレゴリオ聖歌を聴くと現在の音楽とちょっと違って神秘的な薫りが感じられるだろう。これは実は旋律に特徴がある。普段聴きなれている西洋音楽では長調、短調によって旋律を分類することができる。しかしこの時代に音楽は教会旋律と呼ばれる、長調にも短調にも属しない独自な旋律から成り立っている。

記譜法も歴史が経つにつれ次第に確立していく。最初は相対的な音程、次第に絶対的な音程が記述され、最終的には音の長さをきちんと書くようになった。そのため、中世の音楽を演奏するとき、作曲時期によっては音の長さを歴史的考察によって解釈する必要がある。すなわち同じ曲でも演奏によって随分印象が変わってくる。本書では同じ曲で全く正反対の解釈による演奏が聞けるので、とても興味深い。

中世は単旋律から複雑なメロディーへ進化する歴史でもあった。最初はグレゴリオ聖歌のように皆が同じメロディーを歌うところから、次第にメロディーの掛け合いや対比をするようになる。これを音楽用語では対位法と呼ぶ。ルネサンス時代にはこれら対位法が高度に発展する。特に本書で紹介されているルネサンスの代表的作曲家パレストリーナのミサ曲は感動的に素晴らしい。

ほんのちょっとの解説ではあったが、中世・ルネサンスの音楽の雰囲気を感じて頂けたかもしれない。ただ音楽というのは実際聞いてみないと、その素晴らしさはわからないと思う。本書によって当時の歴史的の背景を読んで頂き、それを踏まえて音楽を聴くことで、古い形式の音楽の素晴らしさ、素朴さ、荘厳さを実際に体験して欲しい。きっと新鮮な感動が得られることだろう。

中世の音楽は合唱曲が多いので、ヒーリング効果も抜群である。クラシック音楽の歴史に興味がある人にはもちろんお勧めの本だが、ストレスで最近疲れた人にも気分転換に是非読んで聴いて頂きたい本である。

なお本書は音楽歴史書シリーズの第1巻でバロック音楽等の解説書も既にリリース済みである。バロック音楽やロマン派音楽に興味がある方も本シリーズをチェックして頂きたい。

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2010.06.05

[書評]ケプラー予想(ジョージ・G・スピーロ著)

 個人的な話で恐縮だが、レジ袋に買ったものを入れるのが不得手だ。主婦の人が手際よく、それも効率良くレジ袋に入れる様を見ると感心する。手早くきっちりとレジ袋に物を入れるには何らかの法則があるのだろう。

 この法則をちょっとだけ数学的に考えてみよう。今、大きさが一定のグレープフルーツがある。これをレジ袋には最大何個入るのだろうか?またその場合、グレープフルーツはどのような配置になっているのだろうか?

 「ケプラー予想」のケプラーは有名な天文学者だ。ケプラーはティコ=ブラーエが観測した膨大なデータを元に、有名な「ケプラーの法則」を見出した。これは惑星の運動に関わる法則であり、ニュートンが万有引力の法則を築きあげるきっかけになった。このようなエピソードを聞くと、ケプラー予想とは天文学に関わる予想だと思ってしまうだろう。しかし実際には、ごく最近まで未解決だった幾何学に関わる予想である。

 ケプラー予測を超意訳するとこんな感じだ。
「3次元において、球を一番効率的に詰める方法は、面心立方格子あるいは六方最密格子である。」面心立方格子や六方最密格子は高校の化学で習った、懐かしい結晶構造の一つである。実は、面心立方格子と六方最密格子は見る方向を変えると一緒の構造と捉えることができるため、以後は両方を指して面心立方格子と言うことにする。ケプラーは、とある小冊子でこの予想を行ったが証明はしなかった。

 ケプラー予想は、球をある定期的な構造に限定にするのであれば、かなり前に肯定的に解かれていた。3次元はかの天才数学者ガウスによって解かれている。球の位置が定期的な構造を持っている場合は、2次元にしろ、3次元にしろ解決に重要なキーとなるのは、格子の大きさである。

 格子とは隣接する球の中心同士を結ぶ線によって形成された網目を指す。2次元であれば、2つのベクトル(これを格子ベクトルと呼ぶことにしよう。)を定数倍することによって、全ての球の中心の位置を示すことができる。3次元であれば、格子ベクトルは3つである。

 格子ベクトルで囲まれた部分の大きさ(2次元なら面積、3次元なら体積)を格子体積と呼ぶことにしよう。ケプラー予想は解く事は、ある条件の下に格子体積を最小化する配置を示すことと同じである。ガウスは格子体積が2次関数と関係があることを見出し、ケプラー予想を部分的に解決した。

 しかし問題はこれで終わらない。ガウスが解いたのは、球の位置が格子状に存在する場合である。球の位置に制約がない場合に本当にケプラー予想が成り立つか示す必要がある。2次元の場合(これは球の代わりに円を考える)は、とてもスマートな方法で解かれている。空間に存在する頂点、辺、面の数には一定の法則がある。これをオイラーの法則と呼ぶ。2次元においてはオイラーの法則をフル活用して、ケプラー予想を肯定的に解決した。

次は3次元だが、解決には難航を極めて。結論を言うと解決には球の配置をあるパターンに還元して、その有限パターンをコンピューターによって解析するという手段が取られた。ヘールズによってケプラー予想が3次元について肯定的に解かれたのは、なんと1997年のことであった。自明のような予想にこんなに時間がかかるとは、ケプラーさえも思ってなかっただろう。

 さて、本書には3つの素晴らしい特徴がある。

 1つ目は随所に証明あるいは証明に関わる数学的なストーリがきちんと書いてあることである。球の中心を格子状においた場合の2次元、3次元の証明はそのハイライトである。高校数学の知識があれば、この証明は追うことができる。是非見事な証明を堪能して欲しい。もちろん、このような証明を読み飛ばしても本書は楽しめる。

 2つ目は幾何学のキーワードを学ぶことができることだ。オイラーの法則はもちろん、ボロノイ図やドロネー図についても詳しい解説がある。ここでは説明を割愛するが、コンピュータを使って空間(例えば地図)を解析するときに、ボロノイ図やドロネー図は必須のテクニックとなる。計算幾何に興味がある人は是非読んで欲しい。

 最後はケプラー予想に限らず、最新の幾何学の話題を学べることだ。球に対して最大いくつの球が接することができるか、という「キス問題」は特に興味深い。他にも後半にはケプラー予想に関係のある数多くの予想が解説されている。

 残念ながら本書を読んでもレジ袋に品物をうまく入れるようにはならないだろう。なぜなら品物はいつも球とは限らないからだ。友人がグレープフルーツやオレンジを買いに行く時、ケプラー予想を話すのは如何だろうか?



  

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2010.05.16

[書評]ポアンカレ予想(ジョージ・G・スピーロ著)

 長い間超難問題として知られてきた「ポアンカレ予想」が最近肯定的に解決されたことは、数学者のみならず多くの科学ファンにも知られている。その理由は「ポアンカレ予想」の不思議な魅力だけでなく、予想を解決した天才数学者「ペレルマン」の特異な行動にも因るのだろう。

「ポアンカレ予想」とはフランスの大数学者「ポアンカレ」によるトポロジーに関わる予想である。

ポアンカレは19世紀後半~20世紀初頭に活躍したフランスの数学者で、トポロジーや数理物理学で大きな業績を残している。数理物理学で特に有名なのは「三体問題」の解決で、これはニュートンの万有引力の法則に従う物体が3つ以上存在する場合は、一般的には解析的な解けないという驚く結果を導きだしている。余談になるが、本研究はカオス研究の先駆けとして知られている。この三体問題による業績によりポアンカレは大数学者として認められ、トポロジーに対して精力的な研究を行っていく。

トポロジーとはオイラーによって始められた数学の一分野である。トポロジーとは物の形の本質を見極める研究分野で、物の形をゴムのように伸び縮みを許すことで、どのような性質を導くことができるかを突き止める。ポアンカレはトポロジーの基礎を作った数学者である。

では「ポアンカレ予想」とは一体なんだろうか?誤解を与えるかもしれないリスクを踏まえてイメージ優先で敢えて答えるとすれば、「物体が伸び縮みできるとする。物体上に輪ゴムがあって、それがどのような場合でも1点に縮めることができれば、その物体は球面に変形できる。」ということである。(*厳密な記述でないことを再度強調しておきたい!)これを聞くと、なんとなくそんな感じがする。しかし厳密な証明には100年もの時間が掛かったわけである。

少しトポロジーの話を付け加えよう。物の伸び縮みが可能な場合、物の形を分類する手段は一体なんだろうか?一つは物に含まれる穴の数である。穴の数は伸び縮みしても増えたり減ったりしない。このような変形を行っても一定な数に保たれる数値を「不変量」と呼ぶ。穴の数以外にも不変量があるのだが、残念ながら物の形を完全に分類できる不変量は今のところ発見されていない。この話も実はポアンカレ予想と関係がある。

多くの超難問の歴史と同様、この予想も波乱万丈に満ちた歴史がある。その中にはとても人間臭いものがたくさんある。例えば、5次元以上の解決に関わった研究者の「業績争い」、そして何といってもペルトマンの「フィールズ賞受賞の固辞」。フィールズ賞とは数学のノーベル賞みたいなものである。

ポアンカレ予想が興味深い点の一つは、解決され次元が多次元からであることだ。実際には初め5次元以上で解決し(スメールら)、4次元(フリードマン)、3次元(ペルトマン)という順番である。5次元以上というと驚く人がいるかもしれないが、この解決法には帰納法を利用したことがミソである。5次元で解決すれば、更に高い次元でも解決できる。。。という論法である。多次元の場合空間に余裕があるため、多くの問題では逆に検討がしやすいらしい。

3次元の研究に見込みがついたのは、ハミルトンによる「リッチ・フロー」の研究が始まってからである。リッチ・フローとは、曲面の曲がり方を解析するためのツールである。リッチとは微分幾何学で大きな足跡を残していて、相対性理論等でも使われるリッチ・テンソルが特に知られている。リッチ・フローによってトポロジーの研究は微分幾何学のアプローチを取れることができた。これがポアンカレ予想を解く決め手となった。

ペレルマンはこのリッチ・フローを用い、更には物理学でよく使われる「エントロピー」の概念を導入してポアンカレ予想を肯定的に解決した。ただし、ポアンカレ予想に関わる論文は全てインターネット上の論文アーカイブに投稿され、査読が必要な数学論文誌には投稿されなかった。このことが、クレイ研究所が提案したミレニアム懸賞問題(解決した数学者には何と100万ドルが与えられる懸賞。7つの問題があり、その一つがポアンカレ予想)の受賞資格に値するのかどうか、大きな議論がされていた。

ペレルマンはポアンカレ予想を解決してから、故郷で隠遁生活に入ってしまった。どのような生活を現在行っているか詳細は不明であるが、おそらく数学を熱心に研究しているのではないかといわれている。

この本はポアンカレ予想を歴史的なエピソードを交えながら、数学的な予備知識をあまり知らなくても理解できる良書である。ただし数式等はほとんどないので、エピソード的な記述の側面が強いこと、やはりトポロジーの基礎知識があったほうが読みやすいことを、ここで付け加えておこう。この本によってポアンカレが進化させた「トポロジー」に興味を持って頂けば幸いである。

以下はミレニアム懸賞問題の入門書である。ポアンカレ予想に関わる記述が簡潔に書かれている。

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