現代音楽作曲家の風景~「クセナキス」音楽と数学の融合
今日から新シリーズ「現代音楽作曲家の風景」をお届けします。なじみの少ない現代音楽作曲家を一人ずつわかりやすく紹介するコーナーです。
今日紹介する作曲家は「クセナキス」(1922-2001)です。クセナキスはギリシャ系の作曲家で、頭文字が「X」から始まる作曲家としても知られています。この人の作曲コンセプトは、ずばり「音楽と数学の融合」です。
クセナキスの師匠は現代音楽の巨匠メシアン。そのメシアンらは現代音楽の技法である12音音楽やトータルセリーと呼ばれる作曲技法を模索していました。
当時の音楽は「新しい」音楽を作るために、クラシック音楽では当たり前である「長調、短調」に従わない音楽を作っていたのです。12音音楽とは1オクターブ12音をある順序で並び替えを行うことで音楽を作ること、トータルセリーは音の高さだけでなく、音の強さ、音の長さなども含めて、あるルールで音楽を作ることです。しかしながら戦後これらの音楽技法は大きな突破口を見出せず閉塞感に陥っていたのです。
クセナキスはメシアンのアドバイスを受けて、数学を使って音楽のルールを作ることにします。その数学技法とは、例えば確率、あるいは積分方程式、群論。
しかし彼の音楽は数学技術の知識抜きで楽しめます。彼の音楽の印象といえば、「規則性とカオスの重なり」。ダイナミックでエネルギッシュな音楽構成の中に緻密な規則性が現れる、二面的な音楽が楽しめます。現代音楽があまりわからなくても、この二面性は楽しめると思います。さらに人間演奏技術の限界に挑んだ(というか限界を超えた?)曲も多く、技術力が高い演奏者の格好のアピール曲となっています。
さて、聴きやすくてクセナキスの特徴がわかる、お勧めの曲を3曲紹介しましょう。
「メタスタシス」
最初期の傑作。弦楽パートが細分化され、グリッサンドの速度が各部で異なって演奏されます。そのため、あたかも聞いている人が「音楽の雲」の中に入り込んだような、不思議な感覚になるのが特徴です。弦楽パート各部のグリッサンドの速度は、楽譜を見るとわかりますが、全体では中世の建築のような規則正しい構造を持っています。ただし、楽譜を見なくても、聴くだけでその構造はある程度聞き取れると思います。
「ルボンa+b」
クセナキスはギリシャ出身ということもあってか、打楽器に強い関心を頂いていました。そのため、打楽器をメインに据えた楽曲も相当数残しています。この「ルポン」は打楽器ソロ曲として非常に有名で、特に後半のルボンbは「一人で演奏しているとは思えない」(というかおそらく一人での演奏は無理?)躍動感溢れる曲が魅力です。打楽器奏者の周りにおびただしい打楽器を置いて、演奏者は変幻自在に打楽器を演奏します。ただし、あまりにも演奏が難しい曲なので、私がコンサートで聴いたときには撥が舞台に飛びました。
「ST-4」
弦楽四重奏の曲ですが、クセナキスにかかると一味違う。各パートの高速グリッサンドが炸裂。グリッサンド同士が複雑な規則性で重なることによって、緊張感と安定感が奇妙に同居する曲です。あまりにも演奏が難しいため、私がコンサートで聴いたときにはバイオリンの弓の毛が演奏中にぼろぼろ落ちてました。
今後も不定期に著名な現代音楽作曲家を紹介します。
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