[書評]余剰次元と逆二乗則の破れ
ブルーバックスシリーズは高校程度の前提知識で最先端の科学を理解できる良書が多い。この本は万有引力の挙動を精密に測定することで、4次元を超える空間の有無を確認しようという、とてもユニークな最先端研究の話だ。
まずは万有引力について説明しよう。万有引力はニュートンが法則化し、これによって惑星の運動を説明することが可能となった。
万有引力の大きさは互いの距離の2乗に反比例する。(*この本では逆二乗則と呼んでいる。)万有引力の大きさは非常に小さく、奇才キャベンディッシュによって初めて測定された。万有引力の法則を式で書くと、F=GMm/r2である。ここでGは万有引力定数、M,mは互いの質量、rは距離を示す。
ところで、万有引力の大きさはなぜ互いの距離の2乗に反比例するのだろう?万有引力は「グラビトン」(あるいは重力子)と呼ばれる粒子をお互いに送受信することによって伝わると考えられている。残念ながらグラビトンはまだは発見されていない粒子で、これを発見した人は間違いなくノーベル賞が受賞できると言われている。ところで、球の表面積は4πr2であるから、ある点から送出されるグラビトンは、そこからrだけ離れた点においては1/r2に比例した数を受け取ることができると考えられる。これより万有引力の逆2乗則が説明できる。
話は変わって、超ひも理論と呼ばれる研究がある。超ひも理論とは世の中の力を統一的に説明するための研究だ。この理論では私が住んでいる空間の次元は何と4次元(3次元+時間)を超えるらしい。超ひも理論と同様に4次元を超える空間を予想しているADDモデルでは、4次元を超える部分は1mmオーダーの大きさで存在すると予測している。
4次元を超える空間の存在を確認するにはどうすればよいのだろうか?先ほど万有引力は3次元空間+時間であれば、逆2乗則に従うと述べた。よってADDモデルが正しければ1mmオーダーで万有引力を精密に測定し、逆2乗則に従わないことを測定できれば、この世に4次元を超える空間があることを確認できるはずである。
さて、本書は万有引力を微細な距離間で測定することで、4次元を超える空間の存在を確認する研究プロジェクトの詳細について語られている。万有引力は非常に小さい力のため、測定を行うには様々な工夫が必要だ。6章では実験を行うためのユニークな工夫、そして苦労話が「楽しく」書かれていて、読んでいる方もわくわくするはずだ。
しかし、本書の特徴は、やはり1~5章における量子力学の「わかりやすい」説明にあるだろう。本書のハイライトは力がどうして伝わるかが直感的に理解できる4章「力の法則の一般形」だ。量子力学の説明がほとんどないままで、ミクロな世界における力の伝わり方を説明している書籍はなかなかお目にかかれない。量子力学の興味がある人、既に大学で物理を習った人も4章は必見である。
タイトルを一見しただけでは何の本だかわからないことが個人的には非常に残念だが、量子力学における力の伝わり方が理解できる良書である。著者による研究愛が強く伝わってきて、読んでいて楽しくなる。量子力学に興味がある方、特にミクロな空間で力を伝える仮想粒子を勉強している人には是非読んで欲しい。
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