[書評]十二音による対位法(南 弘明 著)
現代音楽に興味を持ったのは、偶然小学生のときに聞いたストラヴィンスキーの「春の祭典」だった。その後色々な現代音楽の本を読んでいて、「12音音楽」といわれる音楽があることを知った。12音音楽は今でも現代音楽に非常に影響を与える作曲技法である。
では12音音楽とは何だろう?詳しく知りたい方は私のWEBサイトの現代音楽入門「20世紀音楽の世界」をご覧頂くことにして、ここでは簡単な解説でとどめておく。1オクターブの中には(「ド」の音から次の高い「ド」の直前の音までには)、12個の音が存在する。きちんと書くと、「ド」「ド#」「レ」「レ#」「ミ」「ファ」「ファ#」「ソ」「ソ#」「ラ」「ラ#」「シ」の音が1オクターブに含まれる。(ここでは半音表記に#を使った。)この12音全てを1回ずつ現れる列に並べ、(これを音列、あるいはセリーと呼ぶ)、ある規則に従って作曲することを「12音音楽」と呼ぶ。
通常のクラシックやポップスなどは「和声」と呼ばれる「音の調和」を大事にするが、12音音楽では「対位法」と呼ばれるフレーズの重ね合わせが重要になる。12音音楽はバッハの時に盛んだった「フーガ」や「カノン」の技法をふんだんに取り入れている。12音音楽はシェーンベルクが「発明」し、ベルクやウェーヴルンが独自に発展していった。彼らの音楽を聴くと、調性がないのにも関わらずバッハのような「緻密な音」の薫りが漂う。12音音楽は対称性が支配する音楽なのだ。
さて、本の内容に移ろう。先ほど述べたように12音音楽は音列を作成することから始まる。
作曲は音列を順番に並べることのほか、ある音を軸にして、音の高低を逆にする「反転型」、列の音を逆から始める「逆行型」、逆行してさらに反転する「逆行反転型」に分類できる。つまり、一つの音列から色々なパターンにフレーズを変化することができるのだ。更にはそれぞれの音列の高さを平行に移動することができる。実はこの手のフレーズを作る操作は「群論」によって記述でき、理論書によっては詳しい解説があるようだ。
音列はある小節から逆行、反転等に操作することは一般的だ。更にはパートによってそれぞれ異なる音列を利用することも可能だ。このことから、緻密で複雑な曲を自由自在に作成することができる。
ところで、音列自体にも構造を取ることがあることを本では指摘している。例えば12音を3つに区切り、最初の4つの音を素材に次の4音は素材を反転、最後の4音は素材を逆行するような操作で音列を作る。譜面例を見ると、これらの音列の作成テクニックは驚きの連続である。音列自体が構造化することで、確かに音列を聞くだけで均整が取れた感じがする。
以上は紹介した本のほんの触りである。12音音楽の作曲技法について、わかりやすい解説書がないだけに、この本は貴重である。譜面例もたくさんあるので、イメージもしやすいだろう。現代音楽に興味がある人だけでなく、群論や対称性に興味のある方も是非読んで欲しい。そして、時間があればシェーンベルクらの曲を聴いて、譜面を見ることで隠れた対称性を見つけて欲しい。
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