初夏の夜長に現代音楽ってどうよ?~Vol.3「インパクトのある曲」編
現代音楽のお勧めCD紹介コーナーも今回(3回目)で最終回です。
1、2回目は以下のとおりです。
秋の夜長に現代音楽ってどうよ?~Vol.1「聞きやすい曲」編
冬の夜長に現代音楽ってどうよ?~Vol.2「カッコいい曲」編
今回は現代音楽の中でもインパクトが強く、また音楽史に影響を与えた曲を紹介したいと考えています。
シュトックハウゼン「コンタクテ」
シュトックハウゼンといえば、トータルセリーや電子音楽を確立したことで有名です。特にノイズが好きな人には「神」扱いされているようです。
本当はシュトックハウゼンのCDとして、電子音のみで作曲した「習作Ⅰ」「習作Ⅱ」、少年の声と電子音を組み合わせた「少年の歌」を紹介したかったのですが、残念ながらAmazonで取り扱っていないようです。(タワーレコードとかにはありますが、この手の音源はシュトックハウゼンの個人レーベル(!)でしか売ってなく、小売店経由だと結構高いです。しかし音楽史や現代音楽に興味のある方なら絶対買うべき1枚です。)
そこで、今回取り上げるのは既に録音した電子音にピアノと打楽器が「ライブ」で演奏するという、現代音楽界に大きな影響を与えた「コンタクテ」という曲を紹介します。
当時の電子音は今のシンセサイザーとは違い、サイン波や矩形波のようなものを扱っていました。ほとんどBEEP音です。これを緻密な計算のもと(セリーの影響を強く受けている)、周波数や音の強弱等を決定して、音楽として形成したのです。テクノなどの曲に慣れ親しんでいる私たちの世代は強烈な印象を受けると思います。
コンタクテによって、このような電子音と伝統的なピアノや打楽器を「リアルタイム」で合奏することに成功し、この結果電子音楽は大きく発展を遂げることになります。
そして、シュトックハウゼンといえば、ある意味伝説的に有名な一枚も忘れられません。
シュトックハウゼン「ヘリコプターカルテット」
この曲は弦楽四重奏のメンバが4つのヘリコプターに分乗し、ヘリコプターに「乗りながら」曲を演奏するという、とても奇抜でユニークな作品です。実際の演奏では地上でミキシングされます。シュトックハウゼンの大作オペラ「リヒト(光)」の一曲です。
一見「トンデモ」に思えますが、ヘリコプターの上昇音とストリングのグリッサンドがうまく掛け合って、意外とフツーに聞こえます。機会があったら是非聞いてみて下さい。
シュトックハウゼンの初期作品は非常に高い評価がされていますが、中後期作品はこれから客観的な評価がされることでしょう。シュトックハウゼンは来日コンサートで一度見たことがあるのですが、とてもパワフルな印象を受けました。
クセナキス「ST/4」
クセナキスといえば、数学を駆使して作曲をしたことで知られています。ST/4は弦楽四重奏のための曲ですが、グリッサンドを非常に多用し聴衆に強烈な印象を与えます。各プレイヤー間でグリッサンドの見事な掛け合いをするので、現代音楽にあまり慣れ親しんでない人も楽しめると思います。STシリーズにはオーケストラの作品ST/48もあります。
クセナキスの作品の特徴として、規則的な運動や、その反対のカオス状態がうまく混在していることが挙げられます。この作品もその特徴がうまく出ているのでクセナキス入門にはぴったりです。
ちなみに、この曲は超絶技巧曲としても知られています。一度コンサートで聞いたことがあるのですが、迫力満点で見ているほうも興奮します。
メシアン:音価と強弱のモード
シェーンベルクが考案した12音音楽は、それまでの古典的な作曲技法とは異なり、大きな衝撃を与えました。(*フーガのテクニックを活用している)12音音楽は戦後になると、トータルセリーといわれる技法に発展します。12音音楽は1オクターブ12音をある順番で並べ(これをセリーと呼ぶ)、これをフーガの技法を活用しながら発展させるのですが、トータルセリーは音高だけでなく、音の強弱、音の長さ、音のアタックなども規則性を持たせることを目指しました。このメシアンの作品は、トータルセリーの意義を問う作品として作られ、当時の現代音楽界に大きな影響を与えました。
この曲はトータルセリーの特徴、すなわち音の強弱や音の長さがマチマチな曲なので、とても不安定な曲調に聞こえるのが特徴です。古典的なクラシックでは、まず受けたことがない印象を受けるでしょう。超絶技巧曲としても知られています。
ライヒ:「Come Out」「ピアノフェーズ」
大学の音楽の時間に「Come Out」を聞いた衝撃を、今でも忘れられません。ライヒはミニマル音楽の代表的な作曲家です。ミニマル音楽とは短いテーマを繰り返し、そして少しずつ発展しながら曲を構成するのが特徴です。今回取り上げたCDはライヒの初期作品を集めたものです。
「Come Out」は、「Come Out」と発声したテープを使い、それを様々な形に変容・発展させていく音楽となっていて、一種の変奏曲のような感じを受けるでしょう。Come Outという発音が一曲の中に何百回も繰り返されるので、宗教的な儀式を連想する人もいるかもしれません。
「ピアノフェーズ」は2台のピアノのための曲で、あるフレーズを2台のピアノが少しずつ(時間的な意味で)ずらしながら弾いていきます。フェーズは理工系用語の波の「位相」であり、フレーズの「ずれ」を聴衆に感じさせることにこの曲の意義があります。このずれというものが古典的な音楽の「X音符」という単位ではなく、ごくわずかな時間の「ずれ」が少しずつ拡大することから、とてもインパクトのある作品となっています。
このCDはミニマル音楽の原点といえるもので、ミニマル音楽の一般的なイメージである「カジュアルな感じ」とは一線を画すものですが歴史的な作品ですので、現代音楽に興味のある人は聞くことを強くお勧めします。
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如何だったでしょうか?インパクトのある作品というと、他にはナンカロウのピアノエチュード、シェルシの「山羊座の歌」などが挙げられます。是非CDを聞いてみて現代音楽と現代音楽作曲技法に興味を持ってくださいね!
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