冬の夜長に現代音楽ってどうよ?~Vol.2「カッコいい曲」編
さて、現代音楽入門として秋の夜長に現代音楽ってどうよ?~Vol.1「聞きやすい曲」編を書きました。
冬になったので第2弾は予告どおりVo2.「カッコいい曲」編を。クラシックとは違い、超絶技巧、クールな曲がオンパレードなのが現代音楽の良いところ。前回同様、曲を聴く前に「20世紀音楽の世界」で現代音楽の歴史を一通り見ておくと理解しやすいと思います。
□西村 朗:弦楽四重奏第2番「光の波」
日本を代表する現代音楽家、西村 朗の代表作のひとつ。現代音楽演奏家のスペシャリスト、アルディッティカルテットの委嘱作品だけに超絶技巧のオンパレード。例えば普通の弦楽器では普通演奏しない超ハイトーンの続出、ハーモニクス、複雑なリズムの掛け合わせ。後半はインドネシアをケチャを彷彿させるエキゾチックでリズミカルな音楽が始まり、聞いていてとてもエキサイティングになる。単なる技巧的作品で留まらず、聞き手を常に刺激する。
□新実徳英:「風神雷神」~パイプオルガンと和太鼓のための
この曲はとてもユニーク。パイプオルガンと和太鼓のための2重協奏曲である。パイプオルガンと和太鼓と聞くと一見ミスマッチなのだが、パイプオルガンの厳粛な音色に和太鼓の重低音というのがとても合う。
興味深いのは長いアドリブ部分があること。コーダに入る前にパイプオルガンと和太鼓がアドリブを渡され、演奏者のフィーリングによって自由自在な掛け合いが始まる。当然同じフレーズをほかのCDや演奏で聞くことはできない。
可能であればTV番組や生演奏で曲をチェックしてほしい。和太鼓の演奏する姿がダイナミックで、ビジュアルでも楽しめる曲である。
和太鼓を使ったオーケストラ曲といえば松下功:和太鼓協奏曲「飛天遊」も有名。
いくつもの和太鼓を超絶技巧でたたく姿は凄い迫力。ベルリンフィルでもケント=ナガノによって演奏され、当時大きな話題となりました。
□リゲティ:ピアノエチュード
邦人作品ばかり紹介したので、ここで現代音楽の大家、リゲティの作品。
さて、Perfumeの「ポリリズム」という作品を少し解説します。ポリリズムとは「ポリ」(複数)+「リズム」という意味で、独立したリズム(あるいは拍)を同時に演奏することを指します。
このポリリズムの技法はリゲティによって数多く追求されていて、ピアノエチュードはまさにその研究成果の代表作。
リゲティはアフリカンリズムに注目して、単純な規則から複雑なリズムが生成されることに注目しました。
一見カオスティックな曲の中に、きちんとしたリズムが聞き取れることは驚きです。
そのほかにも規則正しい音型の変化により(無限上昇や無限降下など)現代音楽特有のモダンさはあるものの、聴き取りやすい響きを感じることができます。
非常に技巧を有する作品ですが、演奏効果が高いため、多くのピアニストによって演奏されつつあります。
□プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番「戦争ソナタ」
第2次世界大戦中に作曲。曲は調性が薄く無調に近い。プロコフィエフ自身が有名なピアニストであるため、技巧的な部分も多々ある。
特に最終楽章は7拍子で書かれた一番有名な楽章。最後に音の大きな跳躍が続く場面があり、聞きごたえがある。
□クセナキス:ルボンa+b
20世紀になって再注目を浴びた楽器は何かといえば、それは「打楽器」だろう。
現代音楽ではリズムがメロディや和音と同様に重要視され、その結果打楽器はソロ作品を生むまでにもなる。もっとも日本人は和太鼓に慣れているので、打楽器だけの作品というのは全く違和感がないのだが、西洋の人にとっては画期的なことらしい。
その最初期の作品はヴァーレーズの「イオニザシオン」。サイレンまで登場するスパイスが効いた作品だ。
さて、ここで作曲家のクセナキスを紹介したい。そもそも戦後音楽の主流は12音音楽の継承だった。12音音楽とは普通のメロディーの法則に変わり、12音を規則的に組み合わせして音楽を作ること。これをシュトックハウゼンやブーレーズがトータルセリーという音の長さや音の強弱らも規則性を生み出すところまで発展させる。ところでクセナキスは音の規則性としてなんと数学やアルゴリズムを使うことを思いついた。その結果独特の音響とリズムを生み出すことに成功した。
このルボンは打楽器ソロとして非常に有名な作品だが、超絶技巧曲としても知られる。あまりに難しすぎて、私が目にした演奏では演奏中に撥が吹っ飛んでしまった。ぜひ曲の躍動感を楽しんで欲しい。このクセナキス、演奏家のことをあまりに気にせずに作曲しているので「演奏不可能」「演奏不可能な近い」部分があることが多い。演奏家がどう曲にチャレンジしているかを見るのもとても興味深いところである。
ルボンに興味が持てば、シュトックハウゼン「ツィクルス」をお勧めしたい。
この曲も演奏の超難易度が高い作品。シュトックハウゼンが極めたトータルセリーの要素に偶然性というパラメーターも含まれている。楽譜が実はリング状になっていて右周りから演奏しても、左回りから演奏しても、「どこから」演奏してもよい!ことになっている。更に演奏スピードも演奏者に任せられている。もし可能なら楽譜を見ながらCDを楽しんで欲しい。
□バーバー:バイオリン協奏曲
バーバーといえば「弦楽のためのアダージョ」があまりにも有名。よく訃報や葬式の時に流れる重厚で荘厳な音楽ですよね。でも「ピアノソナタ」のようなとても現代音楽的な作品もある。バーバーでぜひ聞いてもらいたいのがこのバイオリン協奏曲。特に第3楽章はバイオリンソロが急速に細かいメロディを演奏し(いわゆる無窮動)、とても緊迫した時間を奏でていく。最近演奏回数が増えているので、クラシックファンでも是非チェックして欲しい。
如何だったでしょうか?ややクールな作品が多かったのですが、聞いてみると興奮する作品が多いはず。一度は聞いてみて欲しいものです。ちょっと技巧的な作 品が多かったかな?カッコいい曲としてはメシアンの「黒つぐみ」、「聖霊降臨祭のミサ]から「閉祭」、デュティユー「ソナチネ(フルートのための)」、 ブーレーズの「2重の影の対話」、武満徹「夢窓」なども面白い。
第3弾は「インパクト」のある作品です。いろいろな意味でネタになる作品教えます!期待して下さいね。
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