P2Pアプリがブラウザー上で動作する!?
一般的なP2Pサービスを利用するうえで障害となる理由のひとつが、専用アプリケーションをインストールする必要があることである。ユーザにとってブラウザーで完結するサービスがほとんどである中、専用アプリケーションを入れることは大きな負担である。
アプリケーションをインストールすることは一般的な人には抵抗がある。はてな村の人には信じられないかもしれないが、メールやブラウザーを専ら使う利用者にとって余程の理由がない限りアプリケーションのインストールとその設定は避けたい事項なのだ。ルーターのポート番号開放なんてものは一般的なユーザにとってとんでもない「アクシデント」なのだ。
さて専用アプリケーションをユーザにインストールされるには、ユーザに何らかのインセンティブを設ける必要があるだろう。Winnyを未だに利用しているユーザが多数いるのには、不正に著作権を侵害しているコンテンツを無料でダウンロードできるという「インセンティブ」があるからだ。一方合法的なP2Pでも専用アプリケーションの利用を成功されている例がある。Skypeは無料で通話できるという魅力的な「インセンティブ」でこの障害をクリアした。しかし、普通のP2Pソフトウェアでその障害を越えることはなかなか難しい。なぜなら一般的なユーザにインストールを迫るだけの魅力的なインセンティブが十分でないからだ。ユーザにとってインセンティブとは魅力的なサービスをクリエイトすることや魅力的なコンテンツを扱うことに他ならないだろう。
そこで、P2P事業者はユニークなアプローチを取り始めつつある。それはP2PサービスとWebサービスの使い方をユーザにとって同一にすることである。具体的に言うと、あるP2P事業者はブラウザー上で動作するP2Pアプリケーションを作成している。
P2PアプリケーションをWebブラウザーで動作させるには、ActiveXやJavaアプレットを使うことが考えられる。残念ながらここでは申し上げられないのだが、ActiveXやJavaをP2Pとして使うには色々なテクニックが必要である。ちなみにFlashは現在のところP2Pを実現できないのだが、将来的にはサポートするという情報はある。
Peer to Peer (P2P) in Flash Player 10 beta
FlashがP2Pに対応すればP2P事業者はより簡易にP2Pサービスを提供できるようになるだろう。また違うアプローチだとブラウザーのツールバーでP2Pを動作させるというのも考えられる。
Firefox用BitTorrentのアドオン「FoxTorrent 1.0」、Akamaiよりデビュー
では実際ブラウザーによってP2Pサービスを提供しているところを紹介してみよう。
□Sharecast2(bitmedia)
P2Pでライブ中継を行うシステム。具体的にはツリー形のアプリケーションレイヤーマルチキャストを行う。
デモコンテンツの視聴
http://scast.tv/brk/ceatec/view_login.jsp
左側に実際の中継しているトポロジーが表示される。
※Java Runtime Environment がインストールされている必要がある。
ユーザにP2Pシステムをより簡便に使ってもらうための別アプローチとして、コアユーザは専用P2Pアプリケーションを利用し、単純機能だけを使うユーザはFlash(つまりP2Pを使わない)を使って利用するというのもある。これはJoostなどが既に実践している。まずは簡単に利用できるFlashによってサービスに馴染んでもらい、その後専用アプリケーションを使ってもらおうという戦略だ。
このFlash戦略は一見良さそうに見えるが、デメリットもある。それはFlashで利用するユーザが増えるとP2P配信システムの負荷が増えるのである。つまり、ある程度P2Pで利用してくれるユーザが存在しないと、ビジネスモデル自体が破綻する。
そのため、このような状況での常套手段して、P2Pユーザには特別なサービスが利用できる等何らかのインセンティブを設ける必要があるだろう。
ところで、Web上でP2Pシステムを動作するサービスも、このFlash戦略に近いデメリットを持つ。というのはブラウザーを閉じたら(タブブラウザの場合はそのタブを閉じたら)ユーザの端末内で動作しているP2Pシステムが終了してしまうからである。ということは、ユーザがP2Pシステムに参加している時間は専用アプリケーションを利用するよりも短くなり、結果としてP2Pシステムのメリットを十分使えない可能性がある。
ただしP2Pライブ配信の場合は同時に多数のユーザが利用することが想定されるため、Webブラウザー上でP2Pシステムを動作しても問題ないだろう。つまり、コンテンツが配信されている時間だけユーザ端末内のP2Pシステムが動作すればよいし、それにコンテンツ自体はユーザがまさに見ているからだ。つまりコンテンツ閲覧時間=端末内でのP2Pシステム動作時間となる。オンデマンド配信の場合にはP2Pシステム内の負荷について注意深く検討する必要があるだろう。
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